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法然聖人の説法
時の朝廷や貴族、僧侶や武士、商人や農民、遊女や盗賊。
法然聖人の教えは、当時の人々の心に深く届きました。
聖人のお言葉が残される書物を通じて、触れてみたいと思います。
一 心が改まらなくても、修行をしなくても、
念仏だけで浄土へ往生することが出来るのでしょうか。
答 心が散乱するのは凡夫のならいで、力が及ぶものではありません。
ただ一心に念仏申せば、罪は消滅して浄土へ往生します。
妄念よりも重い罪でさえ、念仏により消滅してしまうのです。
一 念仏を多く称えるほど往生すると聞いています。
残りの命が短い者は、どうしたらよいのでしょうか。
答 これもおかしなことです。
百度でも、十度でも、ただ一度の念仏でも往生いたします。
一 酒を飲むのは罪になるのでしょうか。
答 ほんとうは飲まないほうがよいのでしょうが、この世のならいなのでどうぞ。
一 毎月の障り（女性の生理）のとき、経を読むのはいかがでしょう。
答 まったくさしつかえのないことです。
一 出家していませんが、往生はするのでしょうか。
答 在家のまま往生する人は、たくさんおられます。
以上「百四十五箇条問答」より
念仏の機(人)には、ただ生まれつきのままにて、念仏をば申すなり。
智者は智者にて申して生まれ、愚者は愚者にて申して生まる。
乃至富貴のものも、貧賤のものも、慈悲なきものも、欲ふかきものも、
腹あしきものも、本願の不思議にて、念仏だにも申せば、いづれも
みな往生するなり。念仏の一願に万機をおさめておこし給える本願なり。
ただこざかしく機の沙汰をばせずして、ねんごろに念仏だに申せば、
みなことごとく往生するなり。
「禅勝房に示される御詞」より
参照「法然と親鸞」佐々木正著 青土社
その言葉から窺い知れる人柄と思想。
「濁悪不善の凡夫のために仏は法を説きたもう」という確信。
あらゆる階層を超えて、人々に念仏の教えが伝わった理由がここにあります。
親鸞聖人の言葉が綴られている「歎異抄」には、悪人こそが阿弥陀如来の
救いの目当てだという“悪人正機（あくにんしょうき）”で有名な第３条があります。
善人なおもつて往生をとぐ、いはんや悪人をや。
しかるを世のひとつねにいはく、
「悪人なほ往生す、いかにいはんや善人をや」。
この条、一旦そのいはれあるに似たれども、本願他力の意趣にそむけり。
そのゆゑは、自力作善のひとは、ひとへに他力をたのむこころかけたる
あひだ、弥陀の本願にあらず。しかれども、自力のこころをひるがへして、
他力をたのみたてまつれば、真実報土の往生をとぐるなり。
煩悩具足のわれらは、いづれの行にても生死をはなるること
あるべからざるを、あはれみたまひて願をおこしたまふ本意、
悪人成仏のためなれば、他力をたのみたてまつる悪人、
もっとも往生の正因なり。
よつて善人だにこそ往生すれ、まして悪人はと、仰せ候ひき。
「歎異抄」第３条より
この親鸞聖人の悪人正機説は、もちろん法然聖人からいただいた教えです。
法然聖人の言葉をいただいてみます。
善人なおもて往生す、いはんや悪人おやのこと、口伝にこれ有り。
私にいはく、弥陀の本願は自力をもって生死を離るべき方便ある
善人のためにをこし給はす、極重悪人無他力便輩を哀れみて
をこし給へり。
しかるを菩薩賢聖もこれに付けて往生を求む、凡夫の善人もこの願に
帰して往生を得、いはんや罪悪の凡夫、もっともこの他力を憑むべしと
いふなり。悪しく領解して邪見に住すべからず、譬えば為凡夫兼聖人
といふが如し。
醍醐本法然上人伝記「三心料簡および御法語」より
両言葉を見比べてみると、親鸞聖人の悪人観は、法然聖人のそれよりも
さらなる深まりが感じられます。
法然聖人は、「菩薩や聖人といった自力方も念仏で往生するのであるから、
罪悪の悪人も阿弥陀如来にお任せしましょう」と仰います。
親鸞聖人は、「善人とは阿弥陀如来を頼む必要もない人であるけれども、
それでも自力を捨てて如来にお任せすれば、救われるのです。自力の修行を
修めることなどかなわない者、如来を頼む悪人が救われるのは、もっともな
ことなのです」と申されます。
法然聖人からいただいた阿弥陀如来の智慧と慈悲を、親鸞聖人は自らの
こととして味わい、深まったのでありましょう。
安らぎと慶びの日々でした。
所在地 知恩院 京都府東山区林下町
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