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癒やしと救い
201２.７.８発行「こうりん」掲載
住職 菅原厚信
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先日ある週刊誌の見出しに「既成宗教は癒やしの存在か」とあり、違和感を覚えました。
◇宗教は“つり革”なのか
多くの現代人は、宗教は電車のつり革のような存在で、大きく揺れたときは慌てて握るけど、何事もない時は頼らなくてもいい、という使い方をしているようです。
では人生における “揺れ ”とは、どんな時でしょうか？
それは、家族や身近な人の死、重篤な病気などでしょう。また、思いもしない出来事で危機に陥ることもあります。
我々は、いかに科学技術が発展しようとも、ほんの一秒後のことですら知り得ないものです。どんなに“利口な”人であっても、全ての“揺れ”を避けて通れません。そんな時だけ宗教を握りしめてみても、過ぎればまた何事もなかったように手放していく。
その場合に語られる宗教とは、一時的な気休めや癒やしの道具という意味なのでしょう。では宗教とは、そして仏教と、癒やしなのでしょうか？
◇癒やしとは
少し前『癒やし系』という言葉がはやりました。日本語としては『癒やす』が正しく、癒やしという使い方は間違っています。現在の使われ方は、「人を和ませるような雰囲気や効果を持つ何か」という意味だそうです。癒やしは一時的であったり、中長期にわたり効果的なものもあります。当時私も「癒やし系住職」と言われ驚きました(苦笑…)。
しかし、癒やしによって心の安らぎを得たように感じても、実はごまかしているに過ぎません。苦悩の本質に眼を向けないことには、根本的な解決は得られない。ここに『癒やし』の限界があります。
セラピストであり、占い師専門のコンサルタント、佐藤はるみ氏はこう言います。
「どの手段であれ、お客様がなぜその手段を必要としたのか…その根本的なものを解決しなければ本当の意味で癒されることはないと思っています」。
本質を突いた言葉です。
◇救いとは
浄土真宗の『救い』は『癒やし』とは異なります。『救い』とは、私の人生を支え、貫く教えとの出遇いです。一時的気休めや、単なる慰めではありません。
生きるという事は、生まれた瞬間から、老い、病み、死にゆく、いのちという川の流れの中にあります。その川が長いものか、短いものなのか、それは縁によって生々流転する賜りものです。
時代や場所に左右されることなく、誰もに共通の事実、これを真理といいます。
阿弥陀如来は智慧と慈悲の仏さまです。真理に目覚め、生死に苦悩する私の姿を見抜き「あなたを救わん、共に歩まん」とおはたらきくださいます。その名乗りが「南無阿弥陀仏」、阿弥陀如来の喚び声です。
ごまかしではなく、苦悩の本質を見つめ、受け入れ、乗り越えていく。つまり『救い』とは、私の存在そのものを問いかける「大いなるはたらき」に出遇うことなのです。
◇ご都合主義の私
では、私とはどの様なものなのでしょうか。
私が見ること、聞くこと、語ること、に共通することは、「私にとって」という主語です。もっと良く観察すると「都合が良いか、悪いか」で判断しています。どこまでも自分の都合を振りかざす“私”。そして、本当のことから目を背け続ける“私”…。
阿弥陀如来の救いとは、その私を目当てとし、目覚めさせる大いなる力です。
い は ん や わ が弥 陀 は 名 を も つ て 物 を 接 し た ま ふ 。
こ こ を も つ て 耳 に 聞 き 口 に 誦 す る に 、
無 辺 の 聖 徳 、 識 心 に 攬 入 す 。
− 教 行 信 証 行 文 類 大 行 釈 −
親鸞聖人は、阿弥陀如来のはたらきと私を目覚めさせる力を「本願力」とよびました。その本願力は「南無阿弥陀仏」声の仏さまとして名乗り出てくださいます。私の口から名乗り出て、再び耳に喚びかける。温もりをとどけ、いのちを育てゆく。
お念仏によって私が育てられ、転じられていく。このことこそが本当の『救い』であります。
◇ ◇ ◇
お盆の法要には、是非ご家族そろってご聴聞ください。
合掌
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