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2017.11発行「こうりん」掲載
宗祖親鸞聖人を偲びて
住職 菅原智之
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天候不順、秋晴れの高い空は何処へ行ったのでしょうか。朝晩の冷え込みでお風邪をひかれていませんか。どうぞご自愛くださいませ。
◇人生の問い
ある学生は「おやどりしょうにん」と読んだようですが、浄土真宗の宗祖は親鸞聖人 「 しんらんしょうにん 」(1173-1263)です。
聖人が生き抜いた時代は、天変地異や戦乱によって、人々の暮らしは荒廃していました。ただ食べることに精一杯であり、人が人として尊重されることはなかったのです。
人々は 「 何のために生まれ、生きるのか。 自分の命に意味があるのか 」 と人間の根本的な問いに悩んだことでしょう。
現代は 「 仏教なんて無くても生きていける 」 という声が大きくなっています。科学万能時代に仏の「救い」など必要ないと。確かに人権状況こそ目覚ましく改善しました。
しかし 「 家はあっても家庭がない。 モノはあっても満たされない。 長寿になっても生きがいがない 」 と嘆く人は、あとを絶ちません。
人間の根本的な問い自体は変わりません。そして、そもそも 「 救い 」 とは 何でしょうか。
各宗教により「救い」の内容は違います。その多くは、私の願いが叶うことが救いであるといいます。
しかし仏教の説く「救い」とは、願いが叶うこととは違います。
仏教とは 「 食べなくては死ぬ。 食べても死ぬ 」 この問いに向き合うものです。私は何を求めて生きているのでしょうか。それが聖人が仏教に求めた問いだったのです。
◇悩み
親鸞聖人は京の都の近く、日野の里に生まれました。
父は貴族藤原家に連なる日野有範。母は源氏の流れの吉光女と伝えられ、幼少名は松若丸でした。
９歳の時出家得度。そして比叡山にて年にもわたる厳しい修行に挑みました。
それは、我が身可愛さという欲望・煩悩と向き合う日々。聖人は比叡山において一定の評価を受ける身となりましたが、そのお心は晴れなかったのです。
親鸞聖人の抱えていた悩み。
１つには、煩悩の悩み。
修行して煩悩を消そうとするほど益々盛んになるありさま。特に人間であれば誰でも抱えている性の悩み。
「何故、人間は男性と女性しかいないのに、女性と一緒になってはいけないのだろうか。いくら否定しても、益々女性と一緒になりたいという思いを断ち切ることが出来ない」と。
２つには、救いについての悩み。
「仏教は全ての者の救いを説くはずなのに、今の比叡山はエリートだけの救いになっている」と。日々の生活に精一杯で、誰にも顧みられず虚しく死んでゆく民衆。そこにこそ救いがなければならないと願ったのでした。
◇恩師との出遇い
浄土宗の開祖法然聖人。比叡山にその名を轟かせた天才です。
「お釈迦様のみ教えは全ての者の救いである。選ばれた者の救いではない」と、比叡山を下山しました。
聖人は「南無阿弥陀仏」と念仏申すことで誰もが救われると説き、関白九条兼実公（くじょうかねざね）や、平家物語で有名な武士熊谷直実（くまがいなやざね）、町人、盗賊、遊女等あらゆる階層の人々が集っていました。
悩みを抱えていた親鸞聖人は、法然聖人のみ教えとお人柄に触れ、阿弥陀如来の化身であると尊敬されました。そこで比叡山での日々をすべて捨て去り、お弟子となったのです。29歳の時でした。
◇結婚、そして流罪
法然聖人と過ごした日々は、濃密で幸せな時間でした。
そんなある時、法然聖人が切り出しました。
「私の言うことを聞くか？」
頷く親鸞聖人。
「では、結婚せよ」と。
そして重ねてこう言われましてた。
「念仏により救われるのであるから、結婚しても差し障りなし」と。
たいへん驚く親鸞聖人。しかし恩師の導きに従い「相手を菩薩の化身と敬いつつ、尊く向き合います」と受けいれました。
妻の名は恵信尼。法然聖人のみ教えを喜ぶ一人でした。
結婚に至る経緯には諸説ありますが、ここに仏教史上初めて正式に結婚した僧侶が誕生したのです。念仏の救いに全てを委ねる法然聖人ならではの導き。ここに比叡山で抱えていた親鸞聖人の悩みは解決したのです。
しかし親鸞聖人35歳の時、念仏の大弾圧が起こります ［ 承元（じょうげん）の法難 ］。
旧来の仏教勢力が進歩的な法然聖人のみ教えを危険視したのです。
僧籍剥奪の上、法然聖人は土佐国（現高知県）へ流罪となりました。これが親鸞聖人にとって、恩師と生涯の別れでした。身を切られるような悲しみを抱えつつ、親鸞聖人も家族と共に流刑地越後国へと赴くのでした。
◇釋親鸞という名告り
都を離れての暮らし。その地で聖人は、厳しい生活環境の中で食べることに精一杯、大地にしがみつくように生きる民衆と出会いました。
「念仏申すことで、全てのいのちが平等に救われてゆく」 阿弥陀如来のみ教えは、まさにこの人々にこそ必要であると感じました。
「流罪を縁として、この人々と共に、お念仏のみ教えを大切に生きてゆこう。念仏を断罪するような権力とは決別し、国から僧侶と認められずとも構わない。これからはお釋迦様のお弟子である自覚をもとに、釋の字を一字いただき、釋親鸞と名告る」と。
結婚し家族を持ち暮らしは俗人でも、心は僧侶として念仏のみ教えに生きる。これを非僧非俗（ひそうひぞく）といいます。浄土真宗の僧侶が剃髪や結婚、食べ物のタブー無き生活をしているのも、この親鸞聖人のみ跡に従っているものなのです。
◇赦免後の足取り
親鸞聖人は流罪がゆるされた後、北関東の茨城県へ赴きます。そこでも市井の人々と共に、お念仏の救いを噛みしめました。
また葛飾の地にも足跡が刻まれています。
人々と共にあった20年間。都へ帰ることになった時、多くの門弟が悲しみました。
京都では執筆活動に励み、お念仏と共に生き抜いた90年の御生涯でした。
人は問いによって育てられ、導かれて
いくのです。
問う人は安易に自己肯定しません。
自己満足に陥らない、常に自己を
新しく創りつづける人です。
親鸞は「しばらく疑問を至して」と言い
つづけ、人間を、自己を、社会を、
仏教を根本から問いつづけ、
常に新しい自己と、よりよき社会と、
本来の仏教とはなにかということを
問いつづける人でした。
九十歳で没するまでその営みをやめる
ことのなかった人です。
「 親鸞の教え 」中経の文庫
法善寺前住職 山崎龍明師
◇認められると言うこと
「 私の都合良く生きたい 」 と願う私。
その条件は、良き生活、健康と長寿、良い出会い等多岐にわたります。
でもそれは生きる手段であって、願望の充足に過ぎません。いのちの充足とは違うものです。
手にしたモノは必ず失う諸行無常（しょぎょうむじょう）。
故に生まれし者は老い病み死にゆく。かけがえのない人との死別。そして死を迎える私の人生。
残念ながら 「 私の願いは叶わない 」 のです。
しかしその私を、包み込み離さない阿弥陀如来の大いなる願いがありました。
「 私のすべてを救いとる、離さない 」 と。そして 「 南無阿弥陀仏 」 とおはたらきくださいます。
それは「私の都合」の善し悪しを超えて、あるがままの私がそのままに認められること。
だから 「 勇気を持って生きてゆける 」 。
そしてすでに如来の御手の中だから 「 安心して死んでゆける 」 。
親鸞聖人は、恩師聖人の導き通りに 「 浄土の真（まこと）を宗（むね）とする 」 、浄土真宗という仏道を歩んでゆかれたのでした。
詳細は  親鸞聖人御旧跡めぐり をご覧ください。
◇ ◇ ◇
親鸞聖人を偲ぶ報恩講が勤まります。どうぞご家族お揃いでお参りください。お待ちしております。
合掌 |
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