如意輪観音の夢告を受けた範宴(比叡山時代の親鸞聖人の名)は、吉水の地(よしみず 現在の知恩院南、円山公園東の安養寺)の法然聖人を訪ねられました。
法然聖人は、範宴より50歳年長者です。
比叡山において大変に優秀な僧侶でしたが、ある時中国善導大師のお言葉に出遇われ、衝撃を受けたのです。
－ 順彼仏願故 －
お念仏ひとつで救われるのは、
それが阿弥陀如来のお心であり
約束だからだ
知恩院阿弥陀堂のご本尊、阿弥陀如来
法然聖人はお念仏の救いこそが、老若男女を問わず貴賤も問わず、普く一切の生きとし生けるものが救いに預かる尊い教えであると、大変に喜ばれました。
そして生に迷い死に惑う全ての人々に伝えたいと決意され、比叡山を下り吉水草庵で過ごし、身分を越えた様々な人々に教えを説いていらっしゃいました。
藤原家出自、元関白の九条兼実(かねざね)。
源平一ノ谷の合戦にて勇猛果敢な武士として大手柄を立てながらも、戦いに明け暮れ傷つけ合う日々に虚しさを感じた熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)。
町の遊女、泥棒、そして町人…。
時は乱世。切迫した生と死。みな抱えきれない問いを持ち、真剣に教えを求めている人々でした。
熊谷次郎直実
源空勢至と示現し
あるいは弥陀と顕現す
上皇・群臣尊敬し
京夷庶民欽仰す
親鸞聖人「高僧和讃」源空讃
意訳 法然坊源空聖人は勢至菩薩の
化身であり、または阿弥陀如来が
人格となって現れ出てくださった
お方であります。
上皇も大臣達も聖人を大変に
尊敬し、京の都人も田舎の人々も、
敬って仰ぎ奉ります。
範宴に法然聖人を勧めたのは、聖覚法院(せいかくほういん)だといわれています。
六角堂百日参籠の途中、二人は京の町で出会いました。
聖覚法院は法然聖人の「選択集(せんちゃくしゅう)」を平易にかみ砕いた「唯信抄(ゆいしんしょう)」を記した方です。
親鸞聖人も聖覚法院を兄弟子として慕い、この「唯信抄」を注釈した「唯信抄文意(ゆいしんしょうもんい)」を記されました。
範宴は法然聖人に、比叡山での修行の日々に感じた疑問をぶつけます。
すると法然聖人は、お念仏によるすくいの謂われを懇切丁寧に説き明かされました。
「範宴はちょうど幼児が母親に会った時のように、顔を伏せて人目も恥ずかしいほど泣き続けました。
範念は日頃抱いていた疑問が氷解して、瞬時に他力の深い意味を会得して、凡夫(ぼんぶ 聖者ではない人) のままで救われる真実信心を決定(けつじょう)して、
長年学んできた自力聖道(じりきしょうどう 聖者になって救われる) の難行道(なんぎょうどう 修めるのが難しい道)をきっぱりと捨てて、
ただちに他力易行(たりきいぎょう)の大道に入って一向専修(いっこうせんじゅ お念仏申す以外の修行をしない)の行者となったのです」
「法然と親鸞」佐々木正著 青土社
安養寺本堂
範宴(親鸞聖人)は後に、この様に述べられています。
たとひ法然聖人にすかされまゐらせて、
念仏して地獄におちたりとも、
さらに後悔すべからず候ふ
歎異抄第２条
意訳 たとえ法然聖人に騙されて、念仏して地獄に
堕ちたとしても、全く後悔はありません。
ただの盲信ではありません。
それは、煩悩を断ちきることができず、清らかな聖者に決してなれない地獄行き間違いのない私が、確かにすくわれていく如来の願いとはたらき(約束)があったことの慶びの言葉です。
そして、弥陀の化身としか言いようのない法然聖人の人格触れ、如来の救いの温もりと確かさに出遇ったが故の言葉なのでした。
所在地 安養寺
京都市東山区円山町624
知恩院
京都市東山区林下町400
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