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山伏弁円の涙 ～板敷山 大覚寺～
稲田の草庵を拠点に、お念仏のみ教えを精力的に布教されて
いた親鸞聖人は、４０キロ圏を１泊２日の日程で歩かれることが
多かったようです。
それによって、お念仏のみ教えを慶ぶ門弟は、増加の一途を
辿りました。
聖人にとっては、「恩師法然聖人の御心に添うことができた」と
噛みしめつつ、阿弥陀如来への御恩報謝の行いだったに違い
ありません。
しかし、以前から土地に根付いていた僧侶や宗教家にとっては、
聖人の名声が高まることは地震の信徒を失うことを意味します。
またそれは、自らの信仰が否定されたという存在の根本に関わ
ることでもあり、そしてお布施の減少によって宗教者としての
生活に支障を来すことでもあります。
筑波山から北西に約５キロ、稲田の草庵からは約１０キロほど
にある加波山は、筑波山系の修験道霊場として、山伏の大家
弁円が人々の信仰を集めていました。
加波山
山伏は護摩を焚くことによって、人々の願いを神仏に届け叶え
ていたのです。
しかし聖人は、
「私の願いが叶うことが、本当の救いではない。
拝んでも、頼んでも、どうにもならない私をそのままに、
ただ阿弥陀如来にすべてをお任せすることが、あるがままの
私が救われていくということなのです」と、
加持祈祷をせず、お念仏を申す身となることを勧められました。
聖人が弁円との対立を望んでいたわけではないでしょうが、
宗教観が根本から違うことによって、一方的な恨みを買うこと
になってしまいました。
護摩壇跡
とうとう弁円は、聖人の殺害を企てました。
しばしば聖人と接触するのですが、その機会がないままに時が
過ぎて行きました。
ついに、弁円は堅く決心しました。
ある時弁円は、聖人が布教活動に出かけたことを確認しました。
聖人が南方から稲田の草庵へ帰られる道中には、板敷山の麓
を通らねばなりません。
そこで弁円は、ここの山頂に護摩壇を築き、聖人の帰りを待ち
伏せしました。
そして護摩を焚き、聖人の死を神仏に祈り続けたのです。
３日３晩に渡る護摩行でしたが、聖人が帰り来る気配が
ありません。
業を煮やし、稲田の草庵を襲撃すると、そこにはにこやかに
出迎える聖人がおられました。
弁円はその姿を見ると、自分自身の恥ずかしさと、
阿弥陀如来のお慈悲そのもののような聖人の温かさに触れ、
その場にひれ伏すのでした。
そして弁円は改心し、山伏の信仰を捨て、聖人の門弟と
なりました。
尊顔にむかひたてまつるに、害心たちまちに消滅して、
あまつさへ後悔の涙禁じがたし。ややしばらくありて、
ありのままに日ごろの宿鬱（しゅくうつ）を述すといへども、
聖人またおどろける色なし。
本願寺第３代覚如上人 「御伝抄」 下巻第二段
「懺悔の地」 石碑
山も山 道も昔にかわらねど 変わり果てたるわが心かな
弁円
弁円は明法房と名のり、聖人も信頼するほどの信心篤い僧
となったのでした。
明法御房の往生のこと、おどろきまうすべきにはあらねども、
かへすがへすうれしく候ふ。
親鸞聖人御消息（お手紙）２
板敷山の麓にある大覚寺は、後鳥羽院の皇子正懐親王が
出家し、周観大覚としてこの地に草庵を結んだことが始まり
です。のちに大覚は聖人の門弟になりました。
境内には親鸞聖人説法石があり、また板敷山には
弁円護摩壇跡が残されています。
聖人のお人柄を偲ばれる物語です。
所在地 大覚寺 茨城県石岡市大増３２２０
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