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2018.11発行「こうりん」掲載
お育てをいただく
住職 菅原智之
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寒暖の差が大きいですね。そしてスーパー台風による塩害で綺麗な紅葉を望めそうもないこの秋。お寺の桜の木も葉が枯れてきました。皆様ご無事でしたか。
◇ワガママな現代
子育てをする中で私が感じることは、「今はワガママを増長させる世の中だなぁ」ということです。
私が子どもの頃はビデオなど無く、好きなテレビ番組はまさに一発勝負、放送時間に見るしかありませんでした。土曜日夜７時、トイレを済ませ正座して時報を待ったものです。そうです、「宇宙戦艦ヤマト」を見るために。ああ懐かしい…。勿論見損なったら、我慢するしかありませんでした。
しかし今の子は見たい番組を録画しているので、何時でも何回でも自分の都合に合わせて視聴できます。便利になるということは我慢の必要がなくなること。私は思うのです。「現代社会のオレ様ワガママぶりは、こんなところから培われるのではないか」と。
「何でも自分の思い通りに出来る」。このような自我が暴走中です。
「どけどけ」とばかりに気に入らない車を煽るドライバー。店員や駅員に暴言を吐く客。自分の意見と違う者を徹底的に叩くネット社会。ワガママなニュースはもうウンザリ。
でも多かれ少なかれ、私もそんな世間の中でワガママになっているかもしれません。それは必ず我が身を苦しめることになるのに。
◇お浄土から還って来る
浄土真宗で大切によむお経に「正信偈」があります。これは宗祖親鸞聖人がお念仏の教えのいわれと歴史を要約し讃えられた賛歌です。
その中に 「 往還回向由他力（おうげんえこうゆたりき） 」 という御文あります。
「お浄土へ往き生まれ仏と成る「往相回向おうそうえこう」のも、仏としてお浄土からこの世に還り遺された人を真実へと導く「還相回向げんそうえこう」のも、全ては阿弥陀如来の本願力＝他力によるものです」という、真宗の教えの肝要を表した言葉です。
出棺の折、こんな言葉を良く聞きます。「あの世へ行って、爺さんとケンカするなょ」。凄く愛情深い言葉ですね。しかしお浄土へ生まれると仏と成るので、もう喧嘩する迷いの姿では無くなります。だから心配ありません。仏と成るとは、私の延長ではないのです。
阿弥陀如来の救いは、お浄土へ往き生まれ仏と成るだけで完結するのではありません。仏と成った方は、お浄土から還って来るのです。でも安心してください。「幽霊ではない」ですから。 「 仏のはたらき 」 として還って来るのです。それは４９日忌を過ぎてからという悠長なものではなく、「 直ちに 」です。
◇仏事の意味
葬儀や法事という仏事は、一般に「こちらから亡き方への供養」と思われていますが、それは違います。
仏事とは、
①こちらから亡き方を思う気持ちと、
亡き方の願いが交わりあう。
②亡き方はただ「死亡」された可哀想な
存在ではなく、お浄土へ生まれ仏と
成られた尊いお方であると偲ばせて
いただく。
③亡き方は「還相回向の仏」として私を
導き、命や人生は私の思い通りに
ならない、老病死をかかえている
私の事実を受け止めてゆく身へと
お育てくださる。
亡き方を大切にするとは、事実を受け止めつつも、確かに歩む私となることです。それは阿弥陀如来の救いの心を聴聞し、手を合わせ「南無阿弥陀仏」とお念仏申させていただく中に育まれます。
◇変化することも私そのもの
仏教の根本思想の一つは 「 諸行無常（しょぎょうむじょう） 」 です。 「 存在する全てのものごとは、常に変化し続けて、そのまま変わらないものは何もない 」 というこの世の真実を示したものです。
頭では分かっていても、それを自分に当てはめることの難しさ。有名人の訃報に 「 人は何時か死ぬから仕方ないよね 」 とつぶやきますが、自分や大切な人が老病死の事実に直面すると、どうしても仕方ないとは受け止められない…。それが迷いの姿。諸行無常を我が事としてこの身にいただくことは大変に難しく、繰り返し仏に問い聞くしかありません。
先日お亡くなりになった樹木希林さんの病気との付き合い方は、諸行無常の受け止め方を示してくださいました。 「 変化してゆく自分を楽しむこと 」 と。仏縁深かった彼女、苦悩の中で戴いてゆかれた仏の智慧を感じます。
仏事とは、み仏と成られたお方の還相回向のはたらきを通じて、私が諸行無常を身に着けてゆく営みです。み教えを聴聞しお念仏申すことは仏のお育てを頂戴すること。それは私の感受性の全てが転換されてゆく歩みです。
◇お育てにあった安芸門徒
西日本豪雨で大きな被害が出た広島県。衷心からお悔やみ申し上げます。
その旧国名は安芸。この地は浄土真宗が大変盛んな土地であり、安芸門徒と呼ばれ、真宗の学者も多く輩出されました。
昭和５６年夏、呉市の対岸江田島品覚寺では、１３人のご門徒が本堂で朝のお勤めをしていました。そこに土砂崩れが…。４人が亡くなり、残りの方も大怪我という大惨事でした。
マスコミの報道は「信仰心があだに」というものでした。
しかしあるご遺族は 「 母は、毎朝の寺参りをなによりも楽しみにしていました。品覚寺の本堂で往生したことは、幸せです 」 とおっしゃいました。
また怪我をしたご門徒は 「 普通に生きていることが当たり前ではないと、平素から法話で聞かせていただいた通りでした。元気になったらまた、お朝事に参らせてもらいます 」
とインタビューに応じました。
お育てをいただく者の強さと、その歩みの確かさを知らされる出来事でした。
◇あきらめる
上のご門徒の受け止め方は、いわゆる「あきらめ」とは違います。それは仏の智慧 「 諦か 」 に由来する 「明ら見 」 ということです。
諸行無常の現実を 「 明らかに見る 」 。すると私が生きていることは当たり前ではないという事実に驚きます。まさに有ること難し、有り難いことでした。
その心を私の身につくまで聞かせていただくことを聴聞（ちょうもん）と言います。
聴聞を重ねる中に、自分の都合を押し通そうとするワガママな私が知らされます。そして 「 今、ここの、当たり前ではない私の現実 」 に 「 うん 」 と頷くことが出来る身へ育てられる。それが「南無阿弥陀仏」阿弥陀如来の救いでした。
そのことを踏まえて下の言葉を味わってみてください。念仏申す歩みの強さと確かさ。還相回向というお育てをいただく仏縁を大切に頂戴して参りたいものです。
フッテヨシ ハレテヨシ
ナクテヨシ アッテヨシ
シンデヨシ イキテヨシ
念仏詩人 竹部勝之進
◇ ◇ ◇
お念仏の救いを伝えてくださった宗祖親鸞聖人を偲ぶ報恩講が勤まります。法要は還相回向により結ばれる大切な仏縁です。どうぞご家族お揃いでお参りください。お待ちしております。
合掌
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